dajey短編小説 "Basic"アートウォレット part2 | Dajey Leather Products

2019/08/01 18:15


地下に降りる為の螺旋階段まで案内され、

ジェームズは一人で下へ降りて行った。


薄暗い階段に少し気味が悪く感じながらも、財布が届いている事をただただ祈りながら一段一段ゆっくりと足を降ろし進めた。


階段を降り切ると、通路の突き当たりの奥に柔らかい光に照らされた「忘れ物」と書かれた看板を目にし、ゆっくりと光の方へ向かった。


するとガラス越しの窓口があり、

中で誰かが仕分け仕事をしているようだった。

どうやら管理人のようだ。


ジェームズは話しかけた。

「あの、昨晩の終電あたりに財布の忘れものは届いていないか?」


すると何かの作業をしていた管理人は、ゆっくりと振り向りながら答えた。


「はい?」


ゆっくりと振り返る管理人の顔が目に入ったその瞬間、ジェームズは背筋がピンと張り詰め、言葉をなくした。


驚いたことに、

振り返った管理人の顔は、

ウサギの人形だったのだ。

よく見ると顔だけでは無く、体全体がフワフワの毛で覆われていた。


その顔の表情の動きは繊細で、着ぐるみなどでは無いということが直ぐにうかがい知れた。


すると、

ウサギの管理人は、ゆっくりと何かを取り出し、呟いた。


「お忘れ物はこれですか?」


手にしているのは、紛れもなくジェームズが4年間使用している"Basic"アートウォレット  だった。


ジェームズは、ホッとした表情で財布を受け取り、中身を確認すると顔写真付きカードが入っていた。

間違いなく自分のものであった。


ジェームズは、証明として中身カードの顔写真をウサギの管理人に恐る恐る見せ、受け取りの帳簿にサインをした。


サインを書き終えようとした時、

ウサギの管理人は再び口を開いた。


「忘れ物はこれだけですか?」

「あなたの忘れものはまだ届いていますよ」


ジェームズは恐怖を感じながらも、

「何を言ってるんだ?俺が昨晩落としたものはこれだけのはずだが?」

と返した。


すると、ウサギの管理人は、

また何かを棚から取り出し見せた。

それは、所々擦りむけて薄汚れたサッカーボールだった。


ジェームズは即答で返した。

「まさか、俺のじゃない。誰か子供の忘れ物だろ」


ウサギの管理人は

「よく見て下さい。」と言い、

ボールの一部を指差した。


目を細め良く見ると、

そこには、ジェームズのフルネームが微かに書かれ残っていた。


それを見た瞬間、ジェームズの頭の中に遠い記憶がフラッシュバックのように現れた。

それは、少年時代夢中になって追いかけたサッカーボールの転がる残像の数々。

毎日毎日夜遅くまで、家の近くの公園で過ごした日々だった。

そう、それは子供時代に所有していたサッカーボールだったのだ。


ジェームズは呟いた。

「なぜ これを、、、」


すると、ウサギの管理人は口を開いた。


「ジェームズ お久しぶりです。私をまだ思い出せませんか?」


ジェームズは何のことだか分からずに、混乱した。

しかしながら、記憶の奥底の微かな光が少しずつ広がるように、頭の中に様々な映像が散りばめだした。


古い記憶の錆びついた重い扉をゆっくりとこじ開けるように、ジェームズの頭の中に流れ込んだ。


そう、

目の前のウサギの人形は、一人っ子だったジェームズの幼少期に兄弟のようにいつも一緒に過ごしたもので、「サミー」と名付けられ、寝る時は勿論、どこに行くときも一緒、お風呂にも一緒に入っていたくらい大好きなものだったのだ。


子供時代の記憶が頭の中で溢れ出し、

サミーのことを思い出したジェームズは懐かしむ余裕は無く、ただパニックに襲われ言葉を無くした。


そして、

ウサギの管理人サミーは再び口を開いた。

「覚えてくれていて嬉しいです、僕はあなたとの日々を忘れたことはありませでした。また会えることを夢みていました。」


そして、

「あと一つ、あなたの忘れ物があります。」

と続けて、縦長の木箱を取り出した。


ジェームズは、何が何だか分からず放心状態のまま恐る恐る木箱の蓋を開けた。


最終話part3に続く。